➀転倒・寝たきり予防のための筋力維持・向上
筋肉の役割とは?
→筋肉には体を支えたり、動かしたり、エネルギーを貯蔵するなどの機能がある。筋肉量が減ると病気になるリスクが高くなる。また、筋肉の役割として大きく3つにわけることができる。
Ⅰ.骨格筋
腕や脚の筋肉、腹筋、背筋など。体を支え、動かす役割を担っている。自分の意思で自由に動かせることができる。一般に筋肉というと骨格筋を指す。
Ⅱ.平滑筋
血管や内臓の壁にある筋肉。血液や尿を運んだり、胃腸を動かす働きをする。自分の意思で自由に動かせない。
Ⅲ.心筋
心臓にだけある筋肉。心臓の壁をつくっている。最も大事な組織の1つである。自分の意思で自由に動かすことができない。
・筋肉量の増減 ―20歳ごろまで筋肉量は増え、その後少しずつ減少していく―
産まれたばかりの赤ちゃんは立つことも歩くこともできない。その後、成長していくにつれて筋肉の量が増えていき、20歳ごろまで筋肉の組織は太く長くなっていく。20歳ごろを過ぎると筋肉量は、中年期に減り、衰えていくが、運動を行うことでその衰えを軽減することができる。
・筋肉が増減する仕組み
筋肉量は筋肉を構成するたんぱく質の合成が多ければ増える。分解が多ければ減る。その増減には生活習慣が大きく関わっている。
合成…適切な食事、運動、男性ホルモン
分解…栄養不足、運動不足、肥満、メタボ
・筋肉量と寿命の関係 ―筋肉の量が多いほど長生きできる―
75~84歳の高齢者の歩く速さと、10年後の生存率を調べた研究で、筋肉の量が多いほど長生きできることがわかってきた。
この研究の内容は、青信号で横断歩道を渡りきれる速度の半分程度の秒速0.4m未満の遅いグループと、成人が普通に歩く秒速1.4m以上の速いグループに分けて行われた。10年後の生存率は、女性では歩くのが遅いグループが35%であったのに対し、速いグループは92%であった。男性も、歩くのが遅いグループの15%に対し、速いグループは50% と3倍以上であった。
この結果は、歩くのが速い人は長く生きられることを表している。歩行速度は筋肉量と関係しているため、筋肉が多い人ほど長生きできるといえる。今、歩くことが遅い人も、運動や適切な食事、また、ほかの疾患の治療によって速く歩くことができるようになれば、生存率を伸ばすことも可能である。
・筋肉が減ると ―転倒のリスクだけでなく病気のリスクも高まる―
筋肉が減ると、転倒するリスクが高まるだけでなく、肺炎、感染症、糖尿病などさまざまな病気を発症するリスクも高くなる。
筋肉が減ると、免疫機能が低下し、細菌感染に対する抵抗力が低下し、肺炎などにかかりやすくなる。
また、筋肉は血糖値の調節も行っている。食事をとると、血液中の糖(ブドウ糖)の量が多くなる。糖の多くは、脂肪に分解される前に、一時的に筋肉に溜め込まれる。筋肉が多いと、糖の調節は問題なく行われるが、筋肉が減ると、糖の保管場所が減少する。その結果、糖を調節する力が低下し、血糖値の変動が大きくなり、糖尿病になる可能性が高まる。
筋肉は、直接手で触れたり、歩く速さ調べることで量の減少がわかり、健康管理の指標になる。
②サルコぺニアとは?
サルコぺニアとは、筋肉が急激に減ってしまう状態をいう。サルコぺニアになると、転倒・骨折など様々なリスクが増える。これまでは適切な診断基準がなかったが、昨年、アジアの診断基準がまとまった。
サルコぺニアは、加齢や生活習慣などの影響によって、筋肉が急激に減ってしまう状態である。一般的な老化による筋肉の減少とは異なる。
サルコぺニアとは、ギリシャ語を基にした造語である。1989年ごろにアメリカで提唱された比較的新しい病気の概念である。
・サルコぺニアの患者数の割合
サルコぺニアは、65歳以上の高齢者に多く、特に75歳以上になると急に増えていく。85~90歳では、男女ともサルコぺニアの割合が60~80%と半数を超える。
65歳以下の人でも、デスクワークや自動車に頼る生活習慣などによって、筋肉が著しく減っている場合がある。そのため、若い人の中にも、サルコぺニア予備軍がいて、注意が必要である。
・サルコぺニアの影響
サルコぺニアになると、歩く速度が低下する、転倒・骨折のリスクが増加する、日常生活の動作が困難になる、病気になりやすくなる、死亡率が上昇するなど、さまざまな影響が出てくる。
「日常生活の動作が困難になる」というのは、着替え、入浴などの日常的な行動がしづらくなるということである。「病気になりやすくなる」というのは、サルコぺニアになると運動量が減り、感染症や骨粗鬆症などの病気を引き起こしてしまいかねないということである。また、糖尿病になるリスクが高まり、他の病気を招くことになりかねない。
「死亡率の上昇」は感染症にかかりやすくなったり動脈硬化が進行して心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクが上がることを意味する。
・サルコぺニアの診断基準 ―筋肉量と歩行速度、握力をチェックする―
以前は、サルコぺニアの診断基準は、欧米人のものしかなく、体格や生活習慣が異なる日本人にそのまま当てはめることはできなかった。そこで、2013年3月に、日本、韓国、中国、台湾、香港、タイ、マレーシアのサルコぺニア研究者による話し合いが始まり、2014年2月にアジア人のための診断基準がまとまった。
その診断基準となるのが、筋肉量と、歩行速度、握力を測定した数値である。
Ⅰ.筋肉量
弱い電流を全身に流すバイオエレクトリカルインピーダンスアナリシス(BIA)法という方法で測定する。1m²当たりの筋肉量が、男性は7.0kg未満、女性は5.7kg未満が低筋肉量となる。
Ⅱ.歩行速度
1秒間に歩ける距離が0.8m以下の場合に歩行速度低下となる。
青信号で横断歩道を渡り切れるか否かが目安である。
Ⅲ.握力
男性は26kg未満、女性は18kg未満で握力低下となる。
握力測定は、椅子に座った状態で背筋を伸ばし、肘を90度に曲げた姿勢で、専用の握力計を使って行う。立って測ると体重がかかり、実際の値より高く出ることがある。通常は、左右2回ずつ測定し最大の値で診断する。高齢者は体力的な問題があり、数値が安定しない。1回測るだけでも良い
これらの基準を基にして、サルコぺニアの診断が行われる。
・自己チェック項目
□ 歩くのが遅くなった(横断歩道を渡り切れない)
□ 手すりにつかまらないと階段を上がれない
□ ペットボトルのキャップを開けにくくなった
→日頃、測定を行うことは難しいので、日常的に3つの自己チェックを行うとよい。
注意が必要なタイプ ―おなかが出ているのに脚が細いなど、3つのタイプがある―
次の3つのタイプは、サルコぺニア予備軍の可能性があるため、注意する必要がある。
タイプ1 痩せている75歳以上の高齢者
高齢者は粗食の人が多く、70歳を過ぎると筋肉をつくるたんぱく質、特に動物性タンパク質の摂取量が減る傾向にある。
タイプ2 メタボで脚が細い人
メタボで、おなかが出ている割に脚が細い人は、食事制限だけ運動をまったくせず、サルコぺニア予備軍の可能性が高くなる。
このタイプは、筋肉の減少と肥満の両方を併せ持つサルコぺニア肥満と考えられる。減量しても、減ったのは筋肉だけで、内臓脂肪は減らず、体重や体型が変わらないため、気づかないのである。また、体重の負荷が多いのに筋力が弱いためバランスがとりにくくなり、転倒しやすくなる。
タイプ3 若い女性
若い女性に筋肉量が少ない人が多いのは、ダイエットで食事制限だけを行って、運動をしないからである。ダイエットで脂肪だけでなく、筋肉が減るのは問題である。
・サルコぺニアの予防と治療
サルコぺニアの治療法には、運動、食事、薬がある。
筋肉は、加齢に伴なつて減る反面、運動や食事の工夫次第で高齢になってからでも増やすことができる。また、サルコぺニアには、10歳代からの生活習慣が影響すると考えられている。若い人もサルコぺニアにいて知り、運動や食事などを見直すべきである。
③ロコモとは?
ロコモとはロコモティブシンドローム(運動器症候群)のことで、運動器の障害によって、要支援・要介護状態になる前段階の状態のことをいう。
運動器とは、体を動かすことに関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称である。運動器は全て連動しているため1つでも悪くなると全体に影響が及んで体がうまく動かなくなる。ロコモ状態になると、現在は日常生活に支障がなくても、数年後には寝たきりや要介護につながる。寝たきりや要介護を防ぐためには、骨や関節、筋肉などの健康に注意するとともに、ロコモを全身の病気として捉えて予防に取り組むことが大切である。
・ロコモ予防で寝たきりを防ごう!
なぜ寝たきりや寝たきりに近い状態になってしまうのか。
2013年国民生活基礎調査によれば、要支援・要介護の原因は、脳血管疾患18.5%、認知症15.8%、高齢による衰弱13.4%、ロコモ(転倒・骨折・関節疾患)22.7%、つまり約5人に1人は「運動器」が原因で要支援・要介護の状態になっている。
運動器のことを“重要なこと”だととらえていない人が多い。例えば、50~60代になってあまり歩かなくなったとしても「年だからしょうがないね」で終わってしまう。しかし、歩かなくなると家に閉じこもるようになり、いずれ寝たきりになる危険性が高まる。さらに、「メタボだから痩せるために運動しよう!」とウォーキングを始めたとしても、逆に膝を痛めて歩けなくなってしまうという場合もある。そのため、運動器は非常に大切である。
・普通に生活していても50代からは要注意
ロコモの原因となる疾患には、筋肉が弱っていく(サルコぺニア)、膝の関節の軟骨がすり減る(変形性膝関節症)、骨がぼろぼろになる(骨粗鬆症)といったものがある。これらを放置しておくと何年か後には要支援・要介護状態になる危険性が高まる。現状では痛みなどの症状がでていないために、自分がロコモの状態であることに気づかないということもある。
過去に関節のケガをしていたり、スポーツを激しくやっていたという人をのぞいて、普通の生活をしていれば30~40代でロコモになることは少ない。しかし普通に生活をしていても50歳を超えたらロコモに注意すべきである。痛みがあれば受診するかもしれないが、歩くのが遅くなっただけや、痛みはあるが休めば歩ける程度であるため病院へ行かない人も多い。けれども、早めに受診すればその進行を止められる可能性がある。
もし、ロコモであるとわかった場合、その人の状態に合わせて様々な治療がある。例えば、「横断歩道を青信号で渡り切れない」に当てはまる人は、変形性膝関節症であると考えられる。程度が軽ければ、湿布を貼ったり、薬を飲むことで改善するかもしれない。もう少し症状が重い場合は、膝にヒアルロン酸注射したり、手術で人工関節をいれるということもある。
・簡単にできるロコモチェック
1つでも当てはまる場合は、早めに整形外科の受診をし、治療を始めることでロコモが改善する可能性がある。
<ロコモチェック>
□ 家の中でつまずいたり、すべったりする。
□ 階段を上がるのに手すりが必要である。
□ 15分くらい続けて歩くことができない。
□ 横断歩道を青信号で渡り切れない。
□ 片足立ちで靴下がはけなくなった。
□ 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。(1ℓの牛乳パック2個分)
□ 家の中のやや重い仕事が困難である。(掃除機の使用、布団の上げ下げなど)
・手軽な「ロコトレ」で無理のない運動を続ける。
ロコモを予防するためには「筋力が落ちるのを防ぐこと」が重要である。
筋力やバランス能力が自然に低下してくるとだんだん活動しなくなってしまうだろう。活動しなくなると太り、太るとさらに活動しなくなる…という悪循環に陥ってしまう。ロコモを予防するには、この流れに抵抗しなければならない。
そこで考えられたのが「ロコトレ」である。多くの人にとって安全で効果があるとされ、実際に毎日続けることで楽に動き回れるようになることができる。大切なのは毎日続けることである。
ロコトレ➀ 開眼片脚立ち
自宅にあるテーブルを使って、左右1分間ずつ1日3回行う。
ポイント…1.転倒しないように必ずつかまるものがある場所で行うこと。
2.床に置かない程度に片脚を上げること。
このトレーニングは、バランス能力を高めるとともに、股関節の周りの筋肉を鍛えることができる。背筋を伸ばして、床につかない程度に片脚を持ち上げるだけの運動である。
ロコトレ② スクワット
深呼吸をするペースで軽いスクワット5、6回を1日3回行う。
ポイント…1.安全のために椅子やソファーの前で行うこと。
2.膝は肩幅に広げ、つま先は30°に開く。
太ももの筋肉やお尻の筋肉、腹筋、背筋などを使うため、さまざまな筋肉をまとめて鍛えることができる。
ロコトレ③ウォーキング
いつでもどこでも行える手軽な運動がウォーキングである。歩くことは、片脚立ちを連続して行うことであるため、ウォーキングの最中は、自然にバランスをとりながら筋肉を使っている。
これらのトレーニングを毎日続けることで、ロコモ予防になり、結果、寝たきりや転倒などを防ぐことにつなげることができる。「年だから…。」と言って、何も運動をせずにじっとしているのではなく、下半身の筋力トレーニングや、バランス運動、ウォーキングなど、下半身を使い、動くことが大切である。なぜなら、筋力は20歳代を過ぎると加齢に伴って低下する。その中で最初に落ちてくるのが大腿四頭筋などの足腰の筋力である。60歳代になると、20歳代の筋力の半分程度に低下するといわれている。
筋力が低下すると、歩行に支障をきたすようになる。足が十分あがらないため、段差でつまづいたり、体がぐらついて不安定になったりする。また、筋力が落ちていると、躓いた時に踏ん張ることができずに転倒してしまう。
転倒・寝たきりを防ぐためにも、足腰の筋力を鍛えることが非常に重要であり、これらの適度な運動を習慣化することが、ロコモ予防、健康長寿の秘訣である。
④尿失禁
「尿失禁」とは、病名というより、様々な機能障害によって、トイレでうまく排尿できなくなった症状のことをいう。
・排尿の異常
排尿の異常には、尿失禁だけでなく、頻尿、おしっこが出づらい、残尿感がある、いつもおしっこがしたいような違和感、蓄尿時や排尿時の痛み、神経障害による尿意の鈍麻など、様々な症状がある。それらの原因となる排尿機能の障害には、大きく分けると「蓄尿障害」と「排出障害」のふたつがある。我慢できないでもれてしまうのが「蓄尿障害」による尿もれ、尿を出し切れなくて膀胱から尿があふれてもれてしまうのが「排出障害」による尿もれである。
・尿失禁のタイプと症状
1.腹圧性尿失禁
重いものを持ち上げたり、咳やくしゃみなどによる腹圧の上昇で起こる尿失禁。主に、尿道や尿道まわりに異常があり、膀胱の過活動はない。
2.切迫性尿失禁
強い尿切迫感とともに、尿をこらえきれずにもらしてしまう。不随意の膀胱収縮を伴う。
3.混合型尿失禁
「腹圧性尿失禁」と「切迫性尿失禁」の混合型。
4.溢流(いつりゅう)性尿失禁
排出障害が基礎疾患としてあり、尿閉状態となり尿が溢れる状態。
5.機能性尿失禁
運動機能の障害や、認知症などのためにトイレに間に合わない、あるいはトイレがわからない、排泄行為が認識できないなどの理由で起きる。
これらの尿失禁を予防・対策のためのトレーニングとして、骨盤底筋トレーニングがある。
肛門を胃の方に吸い上げるような感じで締め上げるトレーニングであり、1日50~60回を半年間続けると、効果が出てくる。
⑤呼吸筋
加齢によって呼吸筋が衰えると、呼吸が浅くなったり、少し動いただけで息苦しくなる。しかし、呼吸筋を鍛えることによってそれらを改善することができる。この運動は、「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」など肺の病気がある人にもお勧めである。
呼吸するとき、肺そのものは伸び縮みしない。周囲の筋肉が収縮することで肺を動かしている。このように呼吸運動に関わる筋肉を総称して呼吸筋という。
・息を吸う筋肉
息を吸うときには、肋骨の間にある「外肋間筋」、首にある「胸鎖乳突筋、背中ある「脊柱起立筋」や「僧帽筋」、肺の下にある「横隔膜」が働くことによって肺が広がる。
特に重要なのが横隔膜である。横隔膜はドーム状の筋肉。収縮すると平面的になり、肺が下に広がる。横隔膜が緩むと、ドーム状に戻り、肺が上に縮む。横隔膜が衰えると平面的になる。そのため、呼吸が浅くなってしまう。
・息を吐く筋肉
息を吐くときには、外肋間筋同様に肋骨の間にある「内肋間筋」、腹部にある「腹直筋」、腹部の外側を走る「腹斜筋(外腹斜筋、内腹斜筋)」が働きことで肺が縮まる。
・呼吸筋のトレーニング
1.胸の筋肉を伸ばす運動―息を吸うときに使う外肋骨筋と胸鎖乳突筋を伸ばす―
➀足を肩幅に開いて立ち、両手を胸の上部に置く。ゆっくりと口から息を吐く。
↓
②息を吐ききったら、ゆっくりと鼻から息を吸いながら頭を後ろへ倒す。胸が持ち上がるので、手で押し下げるようにする。
↓
③息を吸いきったら、ゆっくりと口から息を吐きながら、頭を元の位置に戻す。
⑥認知症予防のために―なぜ運動は認知症予防になるのか―
認知症の予防のために、脳を使った運動が効果的である。計算をするなど脳を使いながらウォーキングなどの有酸素運動を行うと、脳の血流が増加して脳が活性化し、記憶力や判断力などの認知機能の低下が抑えられると考えられている。
最近の研究でも、脳を使って運動するグループと、そうでないグループとを分け6か月後の脳の委縮の割合を調査した結果、そうでないグループは脳の委縮の割合が増えたが、脳を使って運動したグループは脳の委縮がほぼ見られず、6か月前と変わらなかった。
そして、手軽にできる脳を使った運動として、歩きながら行うしりとりがある。1日30分、週3回以上行うと効果的で、少し息が上がる程度のペースで行う。考えることに意識が集中するため、必ず安全な場所で行う。この運動はすらすらと答えられることを目的としているのではなく、考えながら運動をし続けることが重要である。また、脳を使った有酸素運動ほどではないが、散歩などの有酸素運動だけでも効果があることがわかっている。
このように、運動をすることは認知症予防につながるのである。
⑦中高年のスポーツの注意点
・若いころとの違いを知る
運動は、肥満解消、血糖値の改善などによい。しかし、いきなり運動を始めると怪我をしたり、体調を崩すなどの「スポーツ障害」を起こしかねない。中高年の運動では外傷に加え、腰痛や膝痛などの慢性疾患、あるいは心筋梗塞などの突発的な病気にも十分に配慮する必要がある。
特に注意したいのは、自分の体力をかえりみず無理をしてしまうケースである。若いころと同じつもりで、つい頑張りすぎてしまう。楽しく安全に、かつ効果的に運動を続けるために、まず若いころとの違いを自覚しておくことが重要である。
<青年期と中高年期の主な相違点>
●筋肉などの低下
筋肉量や骨量は20歳代をピークに低下し、体を支える力が全体的に弱くなっていく。いきなり強い運動を始めると筋肉痛や腰痛、捻挫、骨折などを起こすことがある。
●柔軟性の低下
関節や靭帯、腱など、体のクッションとなる部分が硬くなっている。強い力が加わったり、体をひねった時に対応できず、腱やアキレス腱などを痛めることがある。
●心肺機能の低下
心臓や肺の働きが低下し、動悸や息切れを起こしやすくなっている。とくに、動脈硬化がある場合には、血管には大きな負担がかかり、心臓疾患などの原因ともなる。
・ウォーミングアップとクーリングダウン
スポーツ障害を防ぐための基本は、ウォーミングアップ(準備運動)とクーリングダウン(整理運動)をきちんとすることである。
ウォーミングアップには怪我の予防だけでなく、血流をよくしたり呼吸量を増やしたりして、運動能力を高める効果があるため、それだけ運動時の体への急激な負担(ショック)を減らすことになる。中高年になると体全体が体全体が硬くなっていることが多いため、とくにストレッチ(筋肉や腱などを引き伸ばす運動)をしっかりと行う。
一方、運動が終わった後には、クーリングダウンを必ず行うこと。運動をすると体には疲労物質(乳酸)蓄積する。そのままではなかなか疲れがとれず、翌日まで影響しかねない。クーリングダウンには、疲労回復を早める効果がある。